大判例

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大分地方裁判所 昭和60年(行ウ)3号 判決

原告 釘宮路子 外五名

被告 大分県立大分上野丘高等学校長

大分県立大分舞鶴高等学校長

大分県立大分東高等学校長

大分県

主文

1  原告釘宮路子、同加藤荘一、同日野和昭、同高浪豪仁及び同藤澤久美の被告大分県立大分上野丘高等学校長に対する、原告安部修司の被告大分県立大分舞鶴高等学校長に対する各入学許可不作為違法確認請求を却下する。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら請求の趣旨

1(主位的請求)

被告大分県立大分上野丘高等学校(以下、「上野丘高校」という。)長の原告釘宮路子、同加藤荘一、同日野和昭、同高浪豪仁及び同藤澤久美(以下、右原告五名を併せて「原告釘宮ら」という。)の同高校への昭和六〇年度各新入学志願に対し許可しないことが違法であることを確認する。

(予備的請求)

被告上野丘高校長が昭和六〇年四月九日にした原告釘宮らに対する同高校への入学不許可処分を取り消す。

2(主位的請求)

被告大分県立大分舞鶴高等学校(以下、「舞鶴高校」という。)長の原告安部修司(以下、「原告安部」という。)の同高校への昭和六〇年度新入学志願に対し許可しないことが違法であることを確認する。

(予備的請求)

被告舞鶴高校長が、昭和六〇年四月九日にした原告安部に対する同高校への入学不許可処分を取り消す。

3 被告大分県立大分東高等学校(以下、「東高校」という。)長が、昭和六〇年四月九日にした原告らに対する入学許可処分を取り消す。

4 原告釘宮らが上野丘高校の第二学年生であることを確認する。

5 原告安部が舞鶴高校の第二学年生であることを確認する。

6 被告大分県(以下「被告県」という。)は、原告らに対し、それぞれ金一〇万円およびこれに対する昭和六〇年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

7 訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告らの答弁

1  本案前の答弁

(一) 原告らの申立3及び6を除くその余の申立をいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案に対する答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件入学者選抜制度の概要

(一) 大分県教育委員会(以下、「県教委」という。)は、大分県の公立高等学校第五通学区域(大分地区、以下、「第五通学区域」という。)に属する公立高等学校のうち、上野丘高校、舞鶴高校、東高校及び大分県立大分鶴崎高等学校(以下、「鶴崎高校」という。)の四校(以下、右四校をあわせて「合選校」という。)の昭和六〇年度入学者選抜方法につき、大分地区四校合同選抜(以下、「本件合同選抜」という。)を採用した。

(二) 本件合同選抜制度の基本的な考え方(目的)としては、「新設高校の育成を図るとともに、学校選択の自由を尊重し、かつ、できるだけ学校間格差が生じないよう配慮する。」とされている。また、その具体的な方法としては、県教委の策定した昭和六〇年度大分県立高等学校入学者選抜実施要項(以下、「本件要項」という。)によれば、入学志願者は、合選校中の一校を志望して、合選校の合同選抜試験を受験する。そして、その試験等の結果により合選校全体の合格者を決定し、右合格者を検査成績順にいくつかのゾーンに区分し、そのゾーン内では成績を等質とみなし、各ゾーン毎に本人の希望と通学条件を勘案して希望校への入学の許否を決定(ふり分け)するとされる。

(三) 本件合同選抜にあたつては、被告らを含め合選校の学校長四名(以下、「合選学校長ら」という。)で合同選抜委員会(以下、「合選委」という。)を構成し、被告舞鶴高校長が委員長として、前項の方法に基づき合格者の決定及びふり分けの事務を担当したものであるが、これは、右学校長らがそれぞれの当該高校に対する志願者について選抜したものであり、他の校長らはその関係では当該校長についての選抜手続の補助者にすぎないものである。

2  原告釘宮らは、いずれも上野丘高校に、原告安部は舞鶴高校に、それぞれ昭和六〇年度新入学志願をしたものである。

3  原告らの受験、合格及び入学許可

原告らは、昭和六〇年三月一三日、一四日実施の合選校の合同選抜試験を受験したが、原告らを東高校の合格者とするふり分けがあつたため、同月一六日東高校への合格が発表され、同年四月九日同高校長より同校への入学許可がなされたものである。

4  入学許可不作為違法確認請求について

被告上野丘高校長は、原告釘宮らの上野丘高校への入学志願につき、被告舞鶴高校長は、原告安部の舞鶴高校への入学志願につき、いずれも今日に至るまで何らの許可をしない。

よつて、原告釘宮らは上野丘高校長の、原告安部は舞鶴高校長の右各不作為が違法であることの確認を求める。

5  予備的請求―入学不許可処分取消請求について

仮に、被告上野丘高校長及び被告舞鶴高校長が、それぞれ原告釘宮ら及び原告安部に対し、各入学不許可処分をしたとするならば、右各処分は、次のとおり違法な本件合同選抜制度、並びにその手続に漫然と従つてなした違法なふり分け(選抜)に基づいて、なされたものであり、違法な処分としてその取消しを免れない。

(一) 本件合同選抜制度の目的の違法性

(1) 前記の本件合同選抜制度の目的のうち、本件合選校には新設校は存在せず、新設校育成の目的は除外されるので、本件合同選抜制度は学校間格差を生じさせないことを目的とするものと解される。

しかし、これは能力以外の理由である学校間格差是正という目的のために、能力以外の理由で入学の許可を決しようとすることであつて、憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反する。

(2) 本件合同選抜制度は、その目的に学校間格差の是正を掲げるが、これを達成する唯一の手段として生徒の学校選択の自由を大幅に制限することを本質的特徴としているものである。生徒の学校選択の自由は学習権の枢要な一部をなすものであり、これに対する制限は、当該生徒に対する教育実践自体に内在する障害の面からのみ正当化されるにすぎないものであるところ、右目的の学校間格差の是正とは、各校の入学者の成績を均一化させることに尽きるものであつて、爾後に施される個々の教育実践には何ら関わりがないものである。しかも、事柄の性質上、右の意味における格差の絶対的解消はありえないのみならず、右格差の是正、方法については合同選抜が必要条件であるともいえない。是正すべき格差の内容が右のようなものであることを考えれば、およそ生徒の学校選択の自由を制限してまで実現しなければならない教育実践上の配慮とはいえない。従つて、本件合同選抜制度はその目的に比し生徒の自由を制限する度合が均衡を失する程度のものとして違法である。

(二) 本件ふり分け基準の違法性

(1) 本件合同選抜におけるふり分け基準として、本件要項の定める基準(以下、「本件要項基準」という。)は、同一ゾーン内においても存在する本件合同選抜試験の成績差を無視して等質とみなしたうえ、通学条件、通学距離で志望の合否を決するものであり、居住地域による差別となり、憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反する。

(2) また、本件要項基準は、いかなる方法でいかなる種類、数のゾーンに分けるのか不明であるうえ、希望と通学条件という全くカテゴリーの異なる概念を組合わせて勘案するとなると、両者の勘案の仕方等により、無限の組合わせが可能となるといつた点において、全く漠然かつ不明確なものである。

しかも、本件要項において、「入学者配分の具体的な手順・方法は別に定める。」と規定しながら、県教委や被告学校長らは何らそのふり分け手順・方法を定めなかつた。してみると、右基準自体ふり分け手続を公正に行わしめる保障としての機能すらなかつたものであり、違法といわざるをえない。

(3) 仮に、被告各学校長らが、その申し合わせにより、合格者を検査成績順に五点幅前後のゾーンに分け、同一ゾーン内の同一校志願者多数の場合、志願者の成績順で、当該志願校枠にふり分ける方法(以下、「申し合わせ基準」という。)を基準にしたのであれば、右基準は希望と通学条件をふり分けの際の勘案要素とする旨定めている本件要項基準に違反しており、違法である。

(4) また、右申し合わせ基準は、成績上位ゾーンにありながら志願校配分枠に入れなかつた者が、その志願校への入学を拒否されるのに、成績下位ゾーンにありながら志願校配分枠に入つた者は、志願校への入学を許可されるという結果を生じ、憲法二六条一項、教育基本法三条一項に定める「能力に応じて」のみ差別しうるという大原則に違反している。

(5) 本件合同選抜制度においては、関係校の通学区域が第五通学区域全体に及び広範囲であるので、ふり分け手続においては充分に「通学条件」が考慮されるべきところ、被告各学校長らは、前記申し合わせによる「成績順」の基準を用いてふり分けを行つたため、通学条件はほとんど考慮されず、志願しない学校への遠距離通学を強いられるなど極めて不公平な結果が生じることになつたが、その原因となつたゾーン内の志願者の成績順で当該志願校枠にふり分ける基準はそれ自体違法である。

(三) ふり分け手続の違法性

(1) 被告らは、後述するとおり、申し合わせ基準に従つて、同一ゾーン内の同一校志願者数が当該校の配分枠を超えるとき、志願者の成績順に配分枠に満つるまでふり分ける方法をとつた旨主張するが、第一に、成績をふり分けの基準とすることが要項化されていないこと、従前そのような説明がなされていなかつたことなどからすると、成績は単に一つの参考資料として用いられたにすぎないと考えられ、右申し合わせ基準に違反している。また、第二に、総合成績一七〇〇番を超え一八〇〇番タイまでの者から五五名を合格させ及び各校にふり分ける際、五五名はすでに総合成績の評定に際し受験成績に加え調査書も得点として評価された者であるにもかかわらず再び調査書を用いることは背理であり、右以外に考慮される資料として情実が介在したことを否定することはできない。更に、第三に、四校各校とも定員数の一パーセントにかぎり学校長の権限により入学者を指名でき、実際に二校は右特別枠を行使しているから、前記要項の基準を明らかに侵犯した違法がある。しかも、特別枠によつて希望校にふり分けられた者とそのため一旦希望校にふり分けられた者が最終的に排除されるという二重の違法がある。しかも、特別枠の権限を行使する手段としてその枠を超える入学希望者の氏名・受験番号を記載したメモ紙をふり分け会場に持ち込み、各ゾーン毎のふり分けが決定されるごとにメモ紙を照合したうえ入れ替えをしたというのであり、そのようなことが各校間において協議のうえなされるものであるとすれば、各校ごとに他所から同様のメモ紙が持ち込まれ、同様の方法によつて入学者の入れ替えが出来ないものではなく、これを絶対にしなかつたという保障は何ら存在しない。

以上のとおり、本件ふり分け手続は、その公正さを担保できないものであることに加え、以下に述べるとおりふり分けの結果の不当性に鑑みれば、恣意によるふり分けが行われたというほかはなく、本件ふり分けは要項に違反し、しかも濫用にわたる違法なものである。

恣意的ふり分けによつて、次のような結果を生じている。

(イ) 東高校入学者のうちの教職員子弟比率が他の三校に比較して著しく少ない。

(ロ) 志願しないで東高校にふり分けられた入学者総数三〇六名のうち、同校の最近隣地域である鶴崎地区からの入学者は六名しかなく三〇〇名は遠隔地の大分中央地区からの入学者である。

(ハ) 上野丘高校は母子家庭、父子家庭の子弟や予備校出身者のふり分けを拒否し、これらの者の大部分は東高校へふり分けられている。

(ニ) 城南中学校出身者の上野丘高校、舞鶴高校へのふり分け率は七三・五パーセントであるところ、同中学野球部出身者は一〇〇パーセント右二校へふり分けられている。

(ホ) 上野丘高校の志願者の定員に対する比率は一五五パーセントであるのに、鶴崎以東地区から四名の運動部出身者が志願しないのにもかかわらず上野丘高校にふり分けられている。

(2) 右に述べたとおり、恣意によりふり分けを行つたことが推測できるのであるから、被告らはこれに対し本件ふり分け手続が公正に行われたことを充分立証すべき訴訟法上の義務があるにもかかわらず、法令により作成、備付、保管が義務付けられており、かつ、ふり分け手続の公正を立証する最も重要な資料である成績表を提出しないのみか、これが廃棄されて存在しないと主張するのみであり、原告らが被告らに対し本件ふり分けの公正さをそのまま証明できる事実について釈明を求めたにもかかわらず理由のない守秘義務、選抜手続の円滑性を理由に応じなかつた。このような不誠実不充分な訴訟活動は、民訴法三一六条を類推適用又は準用すべき程度に達しているものであつて、結局被告らは前記推測を覆すに足る本件ふり分け手続の適法性についての主張・立証のないことに帰するものである。

したがつて、被告各学校長の本件ふり分け及びこれに基づく不許可処分は、その裁量権を逸脱した違法なものである。

(四) よつて、原告釘宮らは上野丘高校長の、原告安部は舞鶴高校長のそれぞれ本件各入学不許可処分の取消しを求める。

6  入学許可処分取消請求について

被告東高校長は、前記の如き違法な本件合同選抜制度並びにその手続に漫然と従つてなした違法なふり分け(選抜)に基づき、本件各入学許可処分をしたものであるから、本件各入学許可処分は違法である。

よつて、原告らは東高校長の本件各入学許可処分の取消しを求める。

7  地位確認請求について

前記のとおり原告釘宮らは上野丘高校に、原告安部は舞鶴高校にそれぞれ昭和六〇年度新入学志願をしたが、被告上野丘高校長及び被告舞鶴高校長は、今日に至るまで何らの許可をせず、若しくは入学不許可処分をした。しかしながら、原告らの本件合同選抜試験における成績から考えると、原告らは各志願どおりに右各高校への入学を許可されるべきものであり、その許可があれば、それぞれ右各高校の在学生である。

そして、原告らは、被告各学校長の本件違法、無効の手続、行為により東高校への入学を余儀なくされ、すでに同高校において第二学年に進級しているものであるが、同高校での課程、履修は上野丘高校、舞鶴高校と同一である。よつて、原告らはそれぞれ右各高校の第二学年の地位を有すべきものであるから、その旨の確認を求める。

8  損害賠償請求について

(一) 被告学校長らの不法行為

(1) 被告各学校長が行つた本件入学に関する許可もしくは不許可処分は、自らが実施したふり分け(選抜)に基づくものであり、そのふり分けは本件要項の定める本件合同選抜制度に従つて行つたものである。

(2) 本件合同選抜制度及びふり分けは、前述のとおり違法、違憲なものであり、公務員たる被告各学校長は憲法、法律を遵守すべき義務があるのにこれを遵守せず、この違法、違憲の事実を知りながら、違法な制度及びふり分けに基づいて本件入学に関して不作為もしくは不許可又は許可処分をしたものであり、被告各学校長の右所為は不法行為を構成するものである。

(3) この不法行為により、原告らは本来志願校に入学できているのに、これを拒否され志願外高校である東高校への通学を余儀なくされているので、その精神的、経済的損害の賠償を求めるものである。

(二) 被告大分県の責任

(1) 被告県は、その公務員として被告各学校長に公権力を行使する権限を付与した地方公共団体である。

(2) 被告県は、国家賠償法一条一項により、その公権力の行使として被告各学校長がその職務を行うについて故意に基づいてなした本件違法行為によつて原告らに加えた損害を賠償する責任がある。

(三) 原告らの損害

(1) 精神的損害

被告各学校長の前記違法行為により、原告らは「学習する権利」、「教育を受ける権利」あるいは「学校選択の自由」を侵害された(なお、ここでいう学習する権利とは、単なる抽象的、一般的に学習する権利ではなく、自己の選択した学校において、自己の能力、好奇心等に応じて学習する権利と具体的に把えるべきである。高校においては、その教育の内容、程度はそれぞれの高校で独自性を有し、生徒の学力(能力)に応じた教育が施されることが要求されているのであるし、また高校は単なる物的設備のみから成るものではなく、校風、伝統、同窓会等無形の要素も高校を構成する重要な要素であるから、それらの差異に応じた学習をする権利を生徒は有しているものと考えるべきである。)。

更にまた、原告らの世代の子どもが、他の人格と交わり、クラブ活動などを活発に行い、精神的、肉体的発達を可能な限り遂げるための指導、助力をすることも高校教育の重大な目的の一つであるところ、原告らはいずれも片道二時間もかかる通学を強いられ、時間的にクラブ活動もできない状況となり、このような精神的、肉体的発達の機会を阻害された。

以上により原告らは多大の精神的苦痛を蒙つたが、これらを慰藉するには金一〇〇万円が相当であるが、その内金として、各自金七万円の慰藉料を各請求する。

(2) 経済的損害

大分市西部に在住の原告らが列車を利用して同市東部にある東高校まで通学する場合の一ケ月の定期代は金八九六〇円である。

従つて、原告らは各自、東高校への通学を開始した昭和六〇年四月一日より本件口頭弁論終結の直前である昭和六一年一〇月末日までの間合計金一七万〇二四〇円の支払いを被告らの違法行為により余儀なくされることになつたのであり、その内金三万円を各自請求する。

二  被告らの本案前の主張

1  入学許可不作為違法確認請求について

原告らの入学許可不作為違法確認請求は、確認の対象たる不作為状態が存在しないから、訴の利益を欠き不適法である。すなわち、

(一) 県教委は、昭和六〇年度の合選校の入学者を合同選抜の方法により選抜することとし、合同選抜の事務を処理するため、合選校の校長四名で構成する合選委を設け、入学願書は合選校を一校とみなし合選委の委員長宛に提出させる旨決定した。

(二) 原告らは右決定に従い、一校とみなされる合選校に対して入学志願をしたものである。合選校に対する入学志願は、「合選校中の一校に入学することを求める」法律行為であり、「合選校中の一校に入学を許可されたときは、他の三校に対する入学志願は、はじめに遡つて効力を失う」旨の解除条件が付されていると解すべきである。

(三) 合選委は、原告らを東高校の入学者に選抜し、東高校長は、右選抜に基づき、原告らに対し東高校に入学することを許可した。

(四) 従つて、原告らは志願どおりの処分を受けたことになり、またそれに伴つて、他の三校に対する入学志願は、はじめに遡つて効力を失つたのであるから、被告上野丘高校長及び同舞鶴高校長の不作為を観念する余地はなく、不作為状態は存在しない。

(五) 仮に、本件入学志願が解除条件付でなく、東高校長の原告らに対する入学許可によつて遡及的に消滅しなかつたとしても、被告上野丘高校長及び同舞鶴高校長は、原告らの本件入学志願に対して入学不許可処分をしたものであり、不作為状態は解消している。

2  入学不許可処分取消請求について

前述のとおり、原告らの上野丘高校又は舞鶴高校に対する入学志願は、東高校に入学を許可された時点で効力を失い、はじめに遡つて存在しなかつたことになる。それ故、被告上野丘高校長及び同舞鶴高校長の所為を入学不許可とみる余地がない。

従つて、原告らの入学不許可処分取消請求は、取消の対象となる行政処分が存在しないので、権利保護の資格を欠き不適法である。

3  地位確認請求について

原告らの地位確認請求は、行政庁である被告上野丘高校長又は同舞鶴高校長が入学許可および進級認定の行政処分をする前に、上野丘高校又は舞鶴高校の第二学年生である旨の確認判決を得て、間接的に行政庁の判断を拘束しようとするものである。これは行政庁に委ねられた裁量権の範囲に立ち入ることを求めるのと同様であるから、権利保護の資格を欠き不適法である。

三  本案前の主張に対する原告らの反論

原告らの新入学志願は、合選校のいずれでもよいという志願ではなく、希望校一校に対する志願である。関係校を一グループにして合同選抜を行うということは、受験生の志願に対する選抜のための単なる一方法でしかないのであつて、原告らが特定一校への志願を有しないものということにはならない。入学にあたつては志願が前提となるが、これは特定の行政庁(学校長)に対してなさねばならず、本件志願を「いずれか一校に入学を許可されたときは、他の三校に対する入学志願は遡つて効力を失う。」旨の解除条件の付せられたものとすれば、志願行為に解除条件を付することは無意味であるばかりでなく、志願先不特定の不特定志願となるので、右のような解釈は許されない。

従つて、原告らの各入学志願に対して、いまだ何らの許否処分がなされないままであるし、仮に処分がなされているとすれば、入学不許可処分がなされたものと考えざるをえないから、本訴不作為の違法確認請求及び予備的になす不許可処分の取消請求は、いずれも適法な訴である。

四  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1のうち、(一)、(二)の事実は認める。但し、本件要項を適用するにあたつての具体的基準、手続は以下に述べるとおりである。同(三)のうち、入学者選抜を行なつたのが当該高校の校長であるとする点は否認し、その余は認める。

本件合同選抜における入学校決定(ふり分け)の具体的基準、手続は以下のとおりである。

(一) 入学校決定(ふり分け)の具体的基準(申し合わせ基準)

(1) 合選校全体の合格者を、検査成績順に五点幅前後のゾーンに分ける。

(2) 各ゾーン毎に、男女別、学校別の配分枠を決定する。配分枠は、各ゾーンの合格者数を学校別募集人員の割合で配分して決定する。(具体的には、四校の学級数の合計と同数である三九枠を一サイクルとし、当初の二〇枠は上野丘、舞鶴、鶴崎、東の各高校の順に四校に均等配分、次の三枠は上野丘、舞鶴、鶴崎の各高校の順に三校に一枠宛配分、次の四枠は上野丘、舞鶴の各高校の順に二校に均等配分、残余の一二枠は上野丘、舞鶴、鶴崎、東の各高校の順に四校に均等配分する手順を繰り返して決定する。)

(3) 入学校の決定(ふり分け)は、各ゾーン毎に配分枠に従つて行う。

ゾーン内の希望者数が希望校の配分枠に満たないときは、希望者を全員希望校に配分する。希望者数が希望校の配分枠を超過しているときは、検査成績順に希望校の配分枠に満つるまで希望校に配分する。(ただし、同点者が多数いて、配分枠で区分することができないときは、同点者全員につき次項(4)のとおりの取扱いをする。)

(4) 希望校に配分されなかつた合格者は、通学条件を考慮し、当該ゾーンの配分枠を満たしていない学校に配分する。

(二) 合選委の入学者決定(ふり分け)の具体的手続

(1) 昭和六〇年二月八日の願書受付開始の直後から、志願者の出身中学校、希望校、受検番号、氏名、検査成績、同序列、学習成績、総合成績、同序列、保護者現住所、旧卒、備考、合否の各欄をもうけているカード(以下、「審査カード」という)の作成を開始し、同年三月一三日、一四日の学力検査実施前に、検査成績、同序列、総合成績及び同序列以外の事項の記入を終えた。

(2) 学力検査終了後、直ちに採点を行い、審査カードに検査成績及び同序列、総合成績及び同序列を記入し、これを完成した。

(3) 学力検査の翌日である同月一五日に、学力検査成績と調査書の記載を総合して、合選校全体の合格者一七五五名を決定した。

(4) 同日、前記申し合わせ基準に従い、合格者を六点刻みのゾーンに区分し、各ゾーンの男女別、学校別の配分枠を決定した。

(5) 同日、審査カードを使用して、合格者をゾーン別、男女別、志望校別に分類し、前記基準に従い、第一ゾーンから順次入学校を決定した。

(三) 右具体的基準及び手続に従つて入学校を決定することについては、合選委が、本件要項決定後数回にわたり、大分県教育庁学校教育課と合同会議を開催し、協議を重ねた結果申し合わせたものである。なお、この申し合わせにつき議事録その他の書面は作成していない。

2  請求原因2は、本件入学志願が特定一校に対するものとする部分を争い、その余は認める。前記二の1、(二)のとおり、右志願は一校とみなされる合選校に対するものである。

3  同3の事実は認め、同4の事実は否認する。

4  入学不許可処分取消請求について

(一) 請求原因5の冒頭及び(一)の各事実は争う。

学校選択の自由は教育を受ける権利の一側面として、憲法上保障された権利であり、これに対する制限は、教育実践自体に内在する障害の面からのみ正当化されることは原告主張のとおりであるが、本件合同選抜制度における学校選択の自由の制限は、教育を正常化し、教育の機会均等の理念を達成するための必要最小限度の制限であり、適法である。すなわち、教育施設も就学人口も少ない時代には、生徒や父母の希望を尊重して学校選択の自由を大幅に認めることによつて、形式的意味での教育の機会均等をはかることができるが、就学人口が増加し、各地方に優れた教育施設が設置されるようになつた現在、学校選択の自由を貫くと、特定校に希望が集中し、学校間格差が大きくなるとともに、受験勉強が過熱し、特定希望校に入学できなかつた者が中学浪人となつたり、評価の低い高校にまわされて劣等感を抱くようになるなど、教育実践上大きな障害になる。その意味で、教育を受ける権利あるいは教育の機会均等の理念自体に学校選択の自由を制約する契機が内在しているというべきである。

(二) 同5(二)、(1)について、本件要項の定めるふり分け基準が憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反していることは争い、その余は認める。

(三) 同(二)、(2)のうち、本件要項において、「入学者配分の具体的な手順・方法は別に定める。」と規定しながら、県教委や被告らがこれを定めなかつたことは認めるが、その余は争う。

(四) 同(二)、(3)のうち、被告各学校長らが、その申し合わせにより、合格者を検査成績順で五点幅前後のゾーンに分け、同一ゾーン内の同一校希望者多数の場合、その検査成績順で当該希望校枠にふり分ける方法を基準にしたことは認め、その余は争う。

希望者が配分枠を超過しているときは、何らかの方法により、配分枠に満つるまでの希望者を選択しなければならない。これについては抽せん、受検番号順、検査成績順などの方法が考えられるが、合選委は、慣例に従い、検査成績順により希望者を選択した。選抜試験であるから、検査成績順が生徒や父母の意向に添うと判断したからである。以上のように、検査成績順の基準は、希望と通学条件を勘案するための手段であり、適用のレベルが異るので、原告らの主張は失当である。

(五) 同(二)(4)及び(5)は争う。

(六) 同(三)のうち、成績をふり分けの基準とすることが要項化されていないこと、総合成績一七〇〇番を超え一八〇〇番タイまでの者から五五名をふり分ける際調査書を用いたこと、四校各校とも定員数の一パーセントにかぎり学校長の権限により入学者を指名できることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

総合成績一七〇〇番を超え一八〇〇番タイまでの受検生の中から五五名の合格者を選択するにあたり、調査書を使用するのは、総合成績が調査書の教科学習成績の換算点と学力検査成績の総合計であつて、「その他の記載」は点数化できないものであるためこれに加味されていないから、背理ではなく、要項の定める「調査書の教科学習成績の換算点並びに学力検査成績の総合計と、調査書のその他の記載事項等を資料として総合的に判定する。」との定めに合致している。また、校長の一パーセント枠の権限は部活動を活性化して生徒の志気を昂揚し、特色のある高等学校教育を実施するためであつて、恣意的理由に基づくものではないから、両者を混同する原告らの主張は失当である。

更に、選抜のための学力検査の成績表は法令が備付、保管を要求しているものではないし、教育の観点からみても、在籍等証明事務の立場からしても、必要のない書類である。求釈明に応じなかつたのは守秘義務があるからである。

被告各校長らは前記四1、(二)に述べたとおりの基準に従い、公正にふり分け手続を行つた。

5  入学許可処分取消請求について

請求原因6のうち、被告東高校長が原告らに対し入学許可処分をしたことは認めるが、その余は争う。

6  地位確認請求について

同7のうち原告らが東高校に入学し、同校において第二学年に進級していることは認めるが、その余は否認する。

7  損害賠償請求について

(一) 請求原因8、(一)の(1)は認める。

(二) 同(2)のうち、被告各学校長が憲法、法律を遵守すべき義務を負つていること及び本件入学に関して不作為もしくは不許可又は許可をしたことは認めるが、その余は否認する。

(三) 同(3)は否認する。

(四) 同(二)の(1)は認め、同(2)は否認する。

(五) 同(三)の各事実はいずれも否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  まず、本件入学者選抜制度、その目的、入学者選抜の具体的基準並びに具体的選抜手続等について、事実関係を確定する。

請求原因1(一)、(二)の事実及び同(三)のうち、本件合同選抜にあたつては、被告らを含め合選校の校長四名で合選委を構成し、被告舞鶴高校長が委員長として合格者の決定及びふり分け事務を担当したこと、並びに同2(志願の性質等に関する主張を除く)及び同3の各事実については当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実に加え、成立に争いのない甲第三号証、第四号証、乙第一号証、第二号証の一ないし六、第三ないし第五号証、第六号証の一、二、第一〇号証、第一三ないし第一五号証、証人木許正生の証言、原告(釘宮路子)法定代理人釘宮幸夫及び被告舞鶴高校長佐藤敏夫本人の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

1  本件合同選抜制度採用に至る経緯

(一)  昭和二四年八月二日制定された大分県内の公立高校通学区域設定に関する県教委規則により、大分市周辺地区は、旧大分市内を中心とする第五通学区域とその東方の旧鶴崎市及びそれ以東の地区よりなる第六通学区域が設けられた。

第五通学区域に関しては、昭和二六年舞鶴高校が新設されたことから、同区内の全日制普通科高校は既設の上野丘高校と合せ二校となつたため、入学選抜につき二校の中学区制を採つたが、その選抜方法については、両校とも旧大分市内に所在するため通学条件はさほど考慮する必要がなかつたことから、新設校育成目的を重点として所謂純粋な形での総合選抜制度(通学条件や希望等を考慮せずに、成績順に両校に順次ふり分けて入学校を決定する制度)が採用された。その結果、舞鶴高校は学力その他において上野丘高校に比肩するほどの優秀校に成長して、右選抜制度の目的を充分に達成したため、一〇年後の昭和三六年度から右制度が廃止され、各校単独選抜へと移行された。

(二)  第五通学区域においては、その後の昭和四八年度に、普通科高校として雄城台高校が新設されることとなつた。その際の選抜方式については、新設校育成及び格差是正の目的から再び三校の中学区制が採用されることになつたが、右新設校が旧大分市郊外の南部(旧大分郡大分町)に位置して他の二校とやや遠くに離れていたため、通学条件も考慮せざるを得なかつたことから、本件同様の所謂大分方式というべき特異なゾーン方式による「合同選抜制度」が編み出され採用されることとなつた。その内容は2に後述するとおりであるが、この方式が考案され採用されるに至つたのは、学校間格差の発生回避ひいては教育の機会均等に十全を期する一方、生徒の志望(これには当然通学条件が考慮されることになる。)を勘案し、可能な限り学校選択の自由を尊重しようという二つの理念を調整し、その調和点として考えうる適切妥当な制度と判断されたからである(ちなみに、受検者の志願が叶う割合は、総合選抜によればある学区を構成する学校で除した比率であるのに対し、本件の合同選抜であれば七割ないし八割にも達している。)。そうして、右の三校の合同選抜制度はその目的を十二分に達し、雄城台高校も新設の初期のころから他の二校と劣らない学校に育成され、三校が鼎立する状況が以後一〇年間継続した。

(三)  その間、大分市の人口は増大し、また第二次ベビーブームの時期に差しかかつたことから、第五及び第六通学区域の中学卒業生の急激な増加が予測されるようになつたため、県教委は、昭和五五年から右に伴う高校新設対策を検討した結果、右両区域をとおして、昭和五八、六〇、六二及び六三年の各年度に各一校普通科高校を新設する長期方針をたて、昭和五八年度開校の新設校として大分市南部に大分南高校の設立に着手した。そのため既設三校と同校との入学選抜をどうするかにつき検討が重ねられた。

その頃は、第六通学区域にある旧鶴崎市や坂ノ市町は既に大分市に合併されて一五年以上を経過していたが、同地域は東高校と鶴崎高校による二校合同選抜制を採つており、大分市内は、大別して以上の二群の合同選抜制が実施されるという状況にあつた。しかし、第六通学区域における中学校の進学指導等は比較的ゆつたりとしたものであつたため、上野丘高校等の三校合選グループと右二校合選グループとの間の学力差はかなりあつて、第六通学区域の住民に不満が醸成され、しかも、第五通学地域に隣接はするものの、本来第六通学区域に入るべきはずの大分市明野地区が、新産業都市計画事業による誘致工場の従業員のための一大団地となつたことから、右誘致策の一環としたためか、右いずれの学校群も選択でき、両通学区域のいずれの高校にも入学できる緩衝地帯とされたため、他の第六通学区域の住民の不満に一層の拍車をかける結果となつた。その他大分市東部の居住環境開発の遅れを指摘する等の声も加わつて、県教委としては、これらをも無視できない状況ともなつた。更に、前記新設校の増設に関しても、第五通学区域のみで増設を図るよりは、第六のそれを含めた全体の単位で検討することが、増加生徒数、増設時期等の関係で合理的であつたことも原因となつて、県教委は、昭和五八年度の新設校を含めた選抜制度を検討するにつき、第五及び第六通学区域を全体としてのそれとして検討し、ことに右二校グループの二校を三校グループ及び新設校とともにプールして、六校についての学区制及び入学者選抜制について具体的策定に入り、県教委の諮問機関である入学者選抜制度協議会や教育問題懇談会等に諮問するなどしてその学区制、グループ分けにつき諸案が検討された。

しかし、この時点では、右の制度を早急に採り入れることは、第六通学区域の中学校の進路指導等に混乱を生じることから、二年程度の準備期間を置いて実施するのが相当であるとの意見が強まり、昭和五七年七月、県教委は、昭和六〇年度に第五と第六通学区域を合併する旨の決定をしたうえ、昭和五八年度の新設校の入学選抜に関しては、三校グループに右新設校を加えた四校を構成校とする従来のゾーン方式による合同選抜制度を引き継ぎ実施する旨決定し、これらを公表した。

(四)  そこで、県教委は、引続き昭和六〇年度の第五、第六通学区域の合併後の学区制及び入学者選抜方法の検討に入ることとなつた。学区制については、周辺部にある二校及び大分女子高校を除き、前記四校グループと二校グループの六校につきこれを二分した中学区制を採る点では早くから合意に達したものの、その分割内容につき提出された複数の案が検討されたが、いずれも一長一短があつて容易に結論が出なかつた。それというのも、入学者選抜の二大理念の一つとした教育の機会均等即ちグループ間の格差が生じないことに重大な関心が払われたし、他方、学校選択の自由や通学条件も可能な限り尊重しようとの観点も軽視できず、これらを十分に調和させるに相当な案を見い出せなかつたからである。そうして、この隘路を打開する形で、第五案として、後述の現在実施されている本件四校と二校との学校群に分けた合同選抜制案が提出され、これが決定されるに至つたのである。

(五)  なお、県教委が前項のような決定をみるに至つた背景には、過去採用してきた選抜制度が十分な実績を上げたこと、生徒の全人格的教育のためには、特定のエリート校等で学ぶよりは、より幅広い人格の混在する高校での教育がより妥当との考慮が働いたものである。

2  本件入学選抜制度及びふり分けの具体的基準について

(一)  県教委は、昭和五九年三月三一日、合併後の大分県第五通学区域(大分市、大分郡及び北海部郡)に属する県立全日制課程普通科高等学校九校のうち、本件合選校である上野丘高校、舞鶴高校、鶴崎高校、東高校の四校を合同選抜とするとともに、雄城台高等学校、南高等学校の二校を合同選抜に、他はそれぞれ単独選抜の方法により、昭和六〇年度の入学者の選抜を行う旨を決定した。そして、右入学者選抜方法の基本的な理念は、新設校の育成を図るとともに、学校選択の自由を最大限尊重しつつ、できるだけ学校間格差を生じないように配慮することであつた。

なお、鶴崎高校は旧大分市域の東に隣接する鶴崎地区(旧鶴崎市域)に、東高校は鶴崎地区の更に東で、大分市最東部の坂ノ市地区(旧北海部郡坂ノ市町域)にそれぞれ位置していて、いずれも創立後二〇年以上の歴史を有する既設の高校である。

(二)  県教委は、昭和五九年一〇月二四日、昭和六〇年度の大分県立高等学校の入学志願者の募集及び入学者の選抜の実施要項として本件要項を決定し、各関係機関にこれを通知、公表したが、本件要項は、本件合同選抜の入学志願手続、合格者決定方法、入学校決定基準等に関して、以下の内容を定めている。

(1) 入学志願は一人一校に限る。ただし、合同選抜を行う高等学校については、その関係高等学校をあわせて一校とみなす。

(2) 合選校に対する志願者は、入学願書に所定の事項(合同選抜入学希望校を含む)を記載し、関係書類等とともに合選委員長宛に提出する。

(3) 合同選抜に関する業務を処理するため、関係校の校長で構成する合選委をおき、本件合同選抜においては舞鶴高校長をその委員長とする。

(4) 合選委委員長は、調査書の教科学習成績(一八〇点満点)及び四教科(美、音、保体、技家)の換算点(一二〇点満点)並びに学力検査成績(三〇〇点満点)の総合計と調査書のその他の記載事項等を資料として総合的に判定するなどして、合選校全体の合格者を決定する。

(5) 入学校の決定(ふり分け基準)については、合格者を等質とみなされるいくつかのゾーンに分け、各ゾーン毎に、本人の希望、通学条件を勘案して入学校を決定する。その入学者配分の具体的な手順、方法については別に定める。

(三)  本件要項決定後、合選委は数回に亘り会合を開き、県教委と協議のうえ、本件合同選抜において、本件要項の定める基準に従うことを踏まえたうえ、ふり分けの具体的基準として次のとおりの方法によることを申し合わせたが、この申し合わせの結果については書面化することも、関係者に公表することもなかつた。但し、翌昭和六一年度の入学者選抜に関しては、本件要項のほか、右の具体的基準とほぼ同内容で、その大要を明文化した「大分県高等学校入学者合同選抜実施要項」(乙第一三号証)が設けられた。

(1) 合格者を検査成績順に五点幅前後のゾーンに分ける(点数幅は検査点の度数分布状況を勘案して具体的に決定する。)。

(2) 各ゾーン毎に、男女別、学校別の配分枠を決定する。配分枠は各ゾーンの合格者数を学校別募集人員の割合で配分して決定する。

(3) 配分の基準は、本人の希望(入学願書中の「合同選抜入学希望校」欄の記載)を第一順位とする。ゾーン内である学校に対する希望者数がその学校の配分枠以内であれば、希望者を全員その希望校に配分する。ある学校に対する希望者数がその学校の配分枠を超過しているときは、学力検査の検査成績を基準として配分枠に相当する人数だけ選択し、採用する。即ち、その学校に対する希望者の中から当該ゾーンにおける検査成績上位の者から順にその学校に配分していく。検査成績同点者が数名いて、その同点者全員を採用すれば配分枠をはみ出すという場合には、これらの同点者について、その居住している中学校区を基準に、それでも競合すれば、各希望者の住所所在地を基準として、当該学校に近い者から順にその学校に配分する。

(4) 希望校に配分されなかつた合格者は、右と同様の方法で通学条件を考慮し、当該ゾーンの配分枠を満たしていない学校に配分する。

3  本件ふり分けの具体的手続について

(一)  昭和六〇年三月一三日、一四日の両日に亘つて本件合選校の入学に関する学力検査が実施された。

合選校の募集人員は、上野丘高校及び舞鶴高校が各四九五名、鶴崎高校四〇五名、東高校三六〇名の計一七五五名であつたところ、本件合選校に対する志願者は合計一九〇一名(上野丘高校七六八名、舞鶴高校七三七名、鶴崎高校三四〇名、東高校五六名)であり、実際に学力検査を受けた受検生の総数は一八四五名であつた。

(二)  同月一四日、学力検査終了後直ちにその採点が開始され、採点終了後合選委では受検生各人ごとに学力検査の検査成績及びその序列並びに右検査成績に調査書の教科換算点等を加えた総合成績及びその序列を審査カードに記入した。

合選委では、同日協議の結果、受検生一八四五名中、総合成績一八〇〇番タイまでの者を審査の対象とし、それ以下の者を不合格者とするとともに、一七〇〇番タイ以上の者を合選校全体についての合格者とする旨決定した。そして、一七〇〇番を超え一八〇〇番タイまでの約一〇〇名の受検生については、各校に三〇名前後づつふり分け手続をした後、各校にその審査カードを配分し、各校毎に設置された審査委員会(各校長の諮問機関)において、調査書のその他の記載事項(特記事項)をも考慮したうえ、各校ごとに、その配分された三〇名前後の受検生のうち、誰を当該学校の合格者にするかについての原案を作成した。

翌一五日、合選委において各校長が持ち寄つた右原案を検討して、右の約一〇〇名中、募集定員である一七五五番に達するまでの約五五名を合格者として決定したが、右の約五五名は合格と同時に右原案を作成した高校へ入学配分することに決定した。

(三)  合選委は、一七〇〇番タイ以上の者については、その審査カードを配分会場の教壇の机の上に男女別、検査成績順に並べ、最上位者から、予め検査点の度数分布状況によつて決定していた六点刻みのゾーンに区分し、第一ゾーンから順次、審査カードを会場中央の机の上に移し、これを更に、希望校別に、会場の四隅に置かれた各合選校四校の机の上に移し変えた。各学校長は、自校の机の上に置かれた審査カードにより自校の配分枠に達するまで選抜者の候補者を選択した。

希望校に配分されなかつた受検生については、一旦その審査カードを中央の机の上に戻し、当該ゾーン内で希望者が配分枠に満たなかつた学校に、受検生の居住地の中学校区を基準に配分した。上野丘高校及び舞鶴高校に対する希望者が両校に配分されなかつた場合に、これらの者を鶴崎高校又は東高校に配分していくにつき、まず大分市立大在中学校(鶴崎高校と東高校のほぼ中間に位置する)区以東の居住者は無条件に東高校に配分し、次に、鶴崎高校に近い中学校区に居住する者から順に同校に配分した。然るに、鶴崎高校は東高校より希望者数も相当多く、また右の二次的配分によつて鶴崎高校の不足枠は極めて少くなつたので、鶴崎地区より西の旧大分市内居住者の多くは、必然的に、却つて遠くの東高校に配分されるという結果になつた。

以上のような手順で、各ゾーン毎、男女別の配分を繰り返し、合格した受検生全員について一応の配分作業を終了した。

(四)  尤も、合選委は、事前に、配分の結果不都合があればできるだけ調整しようとの申し合わせしていたので、右配分作業の終了後、東高校長から右調整の申出があつて協議し、配分の結果通学が遠距離となる受検生のうち、通学条件で配分された者に限つて、しかも、同一ゾーンの中で、鶴崎高校に配分された受検生と大分市西部地区から右鶴崎高校に配分された受検生の住所を通り越して東高校に通学しなければならない受検生とがあるときは、これを交換する旨の申し合せをしたうえ、これを直ちに実施した。その結果二〇名の者が鶴崎高校へとふり替えられた。

(五)  以上のほか、本件ふり分けにあたつて、合選学校長らは協議のうえ、クラブ活動を活性化してそれぞれの学校の特色を出し、生徒の士気を高めるという目的で、従前からの慣行に基づき、合選校全体の合格者のうち、各校の定員枠の一パーセント内に限り優先的に右各校に配分することとし、舞鶴高校においてはラグビーに顕著な実績をもつた志望者について、同部の部長、監督らが推せんし、学校長が審査したうえリストアツプした同校に対する入学希望者一四、五名のうち、四、五名の合格者は、前記申し合わせ基準に従えば同校の配分枠に入らなかつたにもかかわらず、同校に配分され、上野丘高校においても音楽に特に秀でた者について、二、三名の者が同様の方法により同校に配分された。

4  原告らは、本件要項の定めに従つて、入学願書に所定の事項(合同選抜入学希望校欄には、原告釘宮らは上野丘高校、原告安部は舞鶴高校)を記載して、本件合選委委員長宛にこれを提出し、もつて、入学志願した。

5  原告らは、現在自宅から約一五ないし二〇キロメートル以内の距離にある東高校に通学しているが、国鉄列車利用であれば、大分市の中心駅大分市から乗車して列車で約二〇分、乗継ぎの通学バスで約一〇分を要し、右乗継ぎの待時間等をも考慮すると約四〇分ないし五〇分間の通学時間と一月当り約一万円程度の通学費を要し、また、同高校の通学用に借り切つた形の通学専用バスを利用すれば、大分市の中心部から約三五分間の所要時間と、一月当り約二万円弱の交通費を要することになる。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実関係に基づき、次のとおり各請求、主張について順次検討する。

二  入学許可不作為違法確認請求について

1  原告らは合同選抜入学希望校を上野丘高校又は舞鶴高校と記載した入学願書を合選委委員長に提出したわけであるが、これがどのような入学志願であるかについて、検討する。

公立学校への入学は公の営造物の利用関係の設定であり、この利用関係は、利用者の申請に対する営造物主体の意思表示によつて設定される。そうすると右申請たる入学志願と右意思表示たる入学許可とは内容、個数において対応すべきものである。ところで、高等学校の入学は校長がこれを許可する(学校教育法施行規則五九条一項)のであるから、公立高等学校に対する入学志願も高等学校長に対してなさるべきものである。そうして、本件要項においては、本件合選校に対する入学志願者は、合選校四校のいずれの高等学校にも入学許可される可能性のあることを前提としているのであるから、原告ら入学志願者は合選校四校の校長に対して四つの入学志願をしているものと解さざるをえない。尤も、本件要項においては、「合選校を一校とみなす。」「入学願書は合選委委員長宛に提出する。」旨定められているが、これは、合選四校の各校長間で、志願に対する許否の意思表示を統一的に決するという本件合選の選抜手続に照らし、事柄を単純化して表現しているもので、本件要項は右規則の定めに反しえないことはもとよりであるから、本件要項の右の定めは前記のように解釈するほかはない。

被告らは、右各入学志願相互の関係につき、各入学志願に「合選校中の一校に入学を許可されたときは、他の三校に対する入学志願は、はじめに遡つて効力を失う」旨の解除条件が付されているものであると主張する。しかしながら、本件合同選抜制度は、本来の希望校一校のみに対する志願を許さず、いわば合選校全部に対する志願を強制するものであるし、そのうち特定の一校を希望校と指定して出願させることからすれば、受検者は、それぞれ特定校への入学志望の意思を明確に表明しているのであるから、右以外の他校への入学許可がなされたことをもつて、直ちに特定校への志願が消滅することを前提とする志願をなしたものと意思解釈することは困難であることからしても、その志願を解除条件付であると解することは相当ではない。合選校四校の校長に対する各入学志願は、一校に対する入学許可がなされても他は消滅せずに併存していると解すべきである。

2  右によると、本件合同選抜制度は四個の入学志願に対して、合選校の各校長間で入学の許否を統一的に決するための制度であることに鑑みれば、一校に対する入学許可があつた際には、他の三校の校長は、それぞれ当該高等学校について入学不許可をしているものと認められる。したがつて原告らが東高校長より同校への入学許可がなされた時点で他の三校長の入学不許可があつたものと認められる。

3  してみると、被告上野丘高校長及び被告舞鶴高校長には原告らの入学志願に対する不作為は存在しないことになり、原告らの入学許可不作為違法確認請求は訴の利益を欠き、その余の点につき判断するまでもなく、不適法なものとして却下を免れず、被告らの本案前の申立は理由がある。

三  入学不許可処分取消の訴について

1  本案前の主張について

まず、右入学不許可の行政事件訴訟法三条二項にいう「処分」性について検討するに、入学許可手続に関しては学校教育法四九条において、「高等学校に関する入学、退学、転学その他必要な事項は、監督庁がこれを定める。」旨、同法施行規則五九条一項において、「高等学校の入学は、第五四条の三の規定により送付された調査書その他必要な書類、選抜のための学力検査の成績等を資料として行う入学者の選抜に基づいて、校長が、これを許可する。」旨それぞれ規定されており、入学不許可も当然法令に根拠を有するものと解されるし、公立の高等学校は公の教育施設として一般市民の利用に供されたものであつて、公立高等学校における入学の許可、不許可は公の教育施設(営造物)を利用する権利に関係するものであることに鑑みれば、本件入学不許可は行政事件訴訟法三条にいう「処分」にあたると解するのが相当である。そうして、被告上野丘高校長は原告釘宮らに対し、被告舞鶴高校長は原告安部に対し、それぞれ入学不許可を行つたものであることは前判示のとおりである。

従つて、本件においては原告らの主張する各入学不許可という行政処分が存在するから、同各処分の取消を求める原告らの訴は適法であつて、被告らの右各訴に関する本案前の申立はいずれも理由がない。

2  本件合同選抜制度及びその目的の違法性について。

原告らは、本件合同選抜制度及びその目的自体違憲、違法であり、右制度の下でなされたふり分けに基づき、原告らに対してなされた本件各入学不許可処分も違法である旨主張する。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律二三条において、「教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務及び法律又はこれに基づく政令によりその権限に属する事務で、次の各号に掲げるものを管理し、及び執行する。一、教育委員会の所管に属する第三〇条に規定する学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関すること。」と規定され、この教育機関の管理に関することの中には、公立高等学校の入学者選抜制度の決定も含まれると解され、又同法一四条一項において、「教育委員会は、法令又は条例に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、教育委員会規則を制定することができる。」と規定されているのであるから、公立高等学校の入学者選抜制度をどのようなものにするか、即ち、単独選抜にするか、或いは合同選抜、総合選抜にするか、その制度の内容をどのようなものにするかなどの入学者選抜の制度、方法(公立高校という営造物の利用条件の態様)については、教育委員会において、教育施設の数、規模、所在地、各校の特色、就学見込人数、地域の特色、教育レベル、父兄の考え方等諸々の要素を総合考慮のうえ、教育的見地から、法令又は条例の許容する裁量権の範囲内で自由に決定しうるものであり、大分県教委は、これらの規定を受けて、大分県立高等学校学則なる規則を置き、同規則一五条二項において、「入学志願手続及び入学者選抜に関する事項は、別に定める。」と規定し、更にこれに基づいて、前認定の目的、内容を有する合同選抜制度を規定した本件要項を定めたものである。

そこで、以下、原告らの主張するところに従つて検討する。

(一)  教育における能力主義違反の主張について

原告らは、本件合同選抜制度は、学校間格差の是正という目的のため、能力以外の理由で入学の許否を決しようとするものであつて、憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反する旨主張する。

しかしながら、原告らのいう「能力」とは、所詮検査順位に現われた度合を指称するものと解されるが、それでは単なる所謂「能力主義」であつて、能力あつても経済的、社会的、あるいは門地によつて、教育を受ける機会を閉された過去の時代にあつてはまだしも、現在の諸々の教育環境に照らせば、能力主義が多くの弊害の根源となつていることは、次項(二)において述べるとおりである。右各条項における「能力」とは、能動的に教育上の差別を正当化し、単に先天的能力に恵まれた者や検査成績上位の者が、その希望する学校への入学を拒否された場合に、これを直ちに違憲、違法とする契機となるものではない。発育途上にある子供達の能力は、顕在化したもののみで評価できず、多くの潜在し開発の可能な部分を内包しているものであり、また刻々と発達成長しているものである。従つて、右にいう「能力」は、「・・・能力に応じて、ひとしく・・・」(憲法二六条一項)と定められているように、教育を受ける権利や教育の機会均等を実質的に保障しつつ、その子の能力発達に必要とされる教育とその条件、環境整備を積極的に国家に対して要求する根拠となりうべきものである。この観点からすれば、むしろ、学校間格差の是正という本件合選制の目的は、通学区域内各所に水準の均しい教育施設を整備することによつて、その水準に達する能力を有する者が、ひとしく能力発達を可能ならしめる高等学校教育を容易に受けうる条件整備を目指すものであり、かかる観点から本件制度も採用された経緯を有するもので、「能力に応じて均しく教育を受ける」権利実現に資するという側面をも有しているとも評価しうる。

してみると、本件合同選抜制度の採用にあたつて、県教委が学校間格差是正の目的をその主要な要素として考慮したからといつて、前記法条の許容する裁量権の範囲を逸脱したものとはいえず、原告らの主張は失当である。

(二)  学校選択の自由の不当な制限について

原告らは、本件合同選抜制度は、学校間格差の是正という目的のため、原告らの学校選択の自由を不当に制限する制度であるから違法である旨主張する。

仮に、所論のとおり公立学校間における学校選択の自由が憲法上保障された権利であるとしても、公立学校の本来の設立目的や性質(教育の機会均等の実現)からして、そこに学校選択の自由がある程度の制約を受けることは承認されなければならない。学校教育の歴史は、学校選択の自由と教育の機会均等という二つの理念をその根底に有し、それを両輪として実践されてきたものである。今日のように進学率が高くなり、教育施設数も増えた中等教育の状況下で、公立高等学校間における学校選択の自由に重心を傾けると、所謂「有名校」に希望が集中し、学校間格差が拡大されるとともに、受験勉強が過熱し、特定希望校に入学できなかつた者が中学浪人となつたり、「陥没校」の生徒等が強い劣等感を抱くなど、教育実践上大きな障害要因を生じさせ、公立学校の本来の制度目的にもとる結果にもなる。他方、前認定のとおり大分県第五通学区域においては、本件合選校四校のほかに、合選二校のグループや単独選抜二校、その他職業系高等学校も存在し、これらの公立高等学校を選択する余地も残され、この範囲での学校選択の自由は存在するのである。従つて、右のような教育実践上の障害の除去や公立学校の本来の制度目的の観点から、学校間格差の是正を考慮に入れて学校選択の自由に本件程度の制限を加えることは、決して不相当な制限を課したものとはいえないし、まして違法とされるような制限となるものではない。

してみると、県教委が、過去の実績や経験を踏まえ、各界で構成する諮問機関その他の意見を十分考慮し、慎重審議を重ねたすえ、高校生としての人格形成にも、かつまた学校間格差の是正にも最善と判断して採用に至つた本件合同選抜制度が、学校選択の自由の違法不当な制限にあたるとはいえず、原告らの主張は理由がない。

以上のとおりであつて、本件合同選抜制度及びその目的が違憲、違法である旨いう原告らの主張はいずれも失当である。

3  本件ふり分け基準の違法性について。

原告らは、本件合同選抜におけるふり分け基準は違法、違憲であり、右ふり分け基準に従つてなされたふり分けに基づく原告らの入学不許可処分は違法である旨主張する。

ところで、高等学校の入学は、入学者の選抜に基づいて、校長がこれを許可する(学校教育法施行規則五九条一項)のであるから、入学の許否処分のみならず、その前提となる入学者の選抜も学校長の権限に属する(従つて、本件においても、選抜を行つたのは合選委委員長ではなく、各校の校長が当該校の入学者につき選抜を行い、他の三校の校長はその関係では選抜手続補助者と解すべきである。)。そして、校長が入学許否を決するにあたつては、入学志願者が高等学校における教育目的を達成するために必要と思料される資質、知識、学力等を有するか否かを教育的見地に立つて総合的に判断すべきものであるから、それは所謂自由裁量行為に属すると解される。ただ、本件合同選抜制度の下においては、合選校全体の合格者を統一的に決定するとともに、更にこれらの者をどの学校の入学者とするかについての入学者選抜の段階において、合選校校長の間での調整が当然必要となるが、これも同学校長らの間における合意に基づきなされるもので、各学校長の有する右自由裁量権の行使としての性質を変質させるものではないと考える。してみると右のような合選校校長の間での調整をするにあたつての基準となる「ふり分け基準」は、各校長の自由裁量行為たる入学許否処分の妥当性を相互に担保するための各校長に共通の内部的な裁量準則たる性質を有するものと解される。

右によれば、入学許否処分は、各学校長の自由裁量行為の範ちゆうに属し、ふり分け基準はその内部的な裁量準則にとどまることになる。従つて、同基準は各学校長の有する自由裁量権の範囲内のものとして、原則として違法判断の対象たるをえないが、仮に、右基準が法律が委ねた裁量権の枠を明らかに逸脱し、濫用にわたる場合には、この裁量基準に従つてなされた選抜(ふり分け―入学校の決定)に基づく入学許否処分も違法となることはいうまでもない。

そこで、以下、右の観点から、原告らの主張するところに従つて検討する。

(一)  本件要項基準が居住地差別にあたり違法であるとの主張について。

前認定のとおり、本件要項においては、入学校へのふり分けについて本人の希望と通学条件を勘案して決定する旨定められているが、仮に、通学条件を考慮することが居住地による教育上の差別にあたるとしても、本件通学条件の勘案の仕方は、特定地区の者を優遇ないし排斥するといつたものではなく、当該高校から近い中学校区に居住している者から順に配分していくなど一定の、しかも一応合理性のある基準によつて行うものであり、このことに本件合同選抜制度の目的をも併せ考えると、右のように通学条件を考慮することは教育基本法三条等の許容しない不合理な差別であるとはいえず、法が裁量権に委ねた枠を明らかに逸脱したものということもできないから、原告らの右主張は失当である。

(二)  本件ふり分け基準は不明確であり違法であるとの主張について。

なるほど、本件要項においては、ふり分け基準として、「本人の希望」と「通学条件」を勘案して入学校を決定すると規定するのみであり、右規定がその勘案の方法、程度等につき具体性がなく、多義的な解釈を許すものであること及び本件要項において、入学者配分の具体的な手順、方法については別に定めると規定しながら、本件要項以外に明文化され公表されたふり分け基準が存在しなかつたことは原告らの指摘するとおりである。

しかしながら、ふり分け基準は、本来前述するとおり各学校長の裁量処分の妥当性を担保する目的のものであり、かつ合選校長ら複数の意思主体の統一準則であることからすると、これが一義的に明確であることが望ましい一面があることはいうまでもないが、ふり分け基準の性質が、本来自由裁量の範ちゆうに属するものであることや、内部的な裁量準則であることからすると、法はこれが一義的に明確であることまでも、その適法要件として要求しているとまでは考えられず、これが明確性に欠けるところがあつたとしても、裁量準則の定め方の当不当の問題を生ずることは別として、それが違法となるものとは解されない。

さらに、ふり分け基準の右目的からすると、入学希望者らにとつては、その全容が公表されることが望ましいこともまた否みえないが、それがあくまでも内部的な裁量準則という性質からすれば、ふり分け基準の全容が明文化され公表されることが法の要求する必要条件とまではいえないし、内容次第では、これを公表しないことが諸々の観点から望ましい事項も存在することが推測される。しかも、前認定のとおり、被告学校長らは、明文化、公表はしなかつたものの、県教委との申し合わせにより本件要項基準を具体化したふり分け基準を定め、これに従つて本件ふり分けを行つたものであり、本件要項基準に、この申し合わせ基準を併せて考えると、本件におけるふり分け基準が不明確なものであつたとは一概に断じえない。

してみると、原告らの本件主張も理由がない。

(三)  申し合わせによりふり分け基準に検査成績順の基準を採用したことが本件要項に違反し、違法であるとの主張について。

本来、本件要項基準は、前示のとおり、内部的な裁量準則であるから、仮に本件要項に反した基準を用いて入学校の決定(入学許否処分)を行つたとしても、原則として当不当の問題を生じるにとどまるに過ぎない。ただ、本件のように、その要項基準を中学校の進路指導担当者等を通じて予め公表したと同様の状況にあるような場合には、処分を行う側としては、当該基準によつて裁量権の範囲を相応に制約され、これに明らかに違反した基準を用いて入学許否処分を行えば違法の問題を生じる余地もあると解されよう。

しかしながら、本件要項基準は前認定のとおり、本人の希望と通学条件を勘案するというのみであつて、右二つの要素だけで入学校を決定しなければならないというものとは解されない(但し、右程度の公表の結果、一部受検生や父母においては、当然に通学条件が考慮されるものと信じて四校グループを選択させるに至つたであろうことは、前掲釘宮の尋問の結果や弁論の全趣旨により認められ、その公表内容に問題がなかつたとはいえないと思われる。)。しこうして、前認定のとおり、申し合わせ基準も右の二つの要素を勘案することを前提、内容とするものであることは明らかであるうえ、申し合わせ基準において用いられた検査成績順も、特定学校に対する希望者が、ゾーン内の当該学校の配分枠を超過した際にどうふり分け配分するかの基準につき、右要項基準がこれを空白としていたため、その補足的基準として用いられたに過ぎないし、その基準とする選択肢の一つとして一応の合理性があるものである(尤も、ゾーン内は等質とみなしたうえに、検査成績の順位を基準とするのは、自己矛盾ではないかの疑問は残る。)。

これらのことから考えると、申し合わせ基準は本件要項基準に明らかに反しているとはいえず、原告らの右主張もまた失当である。

(四)  申し合せ基準が能力以外の理由による差別を禁じた憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反するとの主張について。

本件合同選抜制度及びその目的が、憲法二六条一項、教育基本法三条一項に違反するものではないことは、前判示のとおりである。そして、申し合わせ基準は本件合同選抜制度の目的を達成するうえで、その手段として相当性の範囲内にあると解する。何故なら、本件合同選抜制度における学校間格差是正という目的実現の一内容として、特定校への成績上位者(あるいは成績下位者)の集中回避が考えられるが、この目的を達成するために、前認定のとおり、合選校全体の合格者を検査成績順に各ゾーンに区分し、各ゾーン毎に設定された学校別の配分枠に従つて、合格者の入学校を決定するという申し合わせ基準に従えば、成績上位及び下位者を万遍なく各校に配分することになるし、更にそれだけでなく、各レベルの生徒をも各校に均等に配分するものであり、右目的に適つた相当なものであると解される。

ただ、各校単位でみた場合には、申し合わせ基準に従えば、成績上位の志望者が入学を拒否され、同じ志望者で成績下位でありながら志望どおりに入学を許可されるという一見不合理な結果を生じることは、原告らの主張するとおりであるが、本件合同選抜制度における合格者決定基準の下では、能力、資質において一定の水準以上の者は、合選校全体の合格者として、一定の水準にある合選校のうちの一校への入学を許可されるものであり、このことに前記のとおり申し合わせ基準が本件合同選抜制度の目的を達成する手段として相当なものであることを併せ考えると、申し合わせ基準は前記法条の許容する裁量権の範囲内にあるもので、これを逸脱したものとはいえず、原告らの右主張も失当である。

(五)  申し合わせ基準は、ゾーン内における検査成績順を基準としたため、通学条件が殆んど考慮されず、不公平な結果を招来したものであつて、違法であるとの主張について。

所論が違法とする根拠が何であるか不明確であるが、前認定のとおり、申し合わせ基準においては、通学条件が一応勘案されていたものの、それは希望校に配分されなかつた場合の入学校の決定に際して勘案されるにすぎないもので、副次的なものであつたのであり、このような申し合わせ基準は、これを適用することによつて、入学を許可した高等学校において教育を受ける権利を事実上剥奪するに等しい程度の遠距離通学を強いる結果を生じるなどの特段の事情のない限り、当不当の問題は別として、法の許容する範囲内のものであつて、違法の問題を生じないというべきである。

この観点から本件についてみるに、前認定のとおり、申し合わせ基準を適用した結果、上野丘高校又は舞鶴高校に対し入学を希望したが両校に配分されなかつた旧大分市域在住者の多くは必然的に東高校に配分される結果となつたのである。すなわち、鶴崎高校の入校者決定に際しては、同高校周辺の中学区域の生徒から先ず選別するため、同校周辺にドーナツ現象が生じ、より西に居住する者はより東の遠い高校へとふり分けされるという結果を甘受させられることになつたわけである。教育的配慮の見地からすれば、右の結果が相当でないことは明らかである。すべての生徒(特に希望校に配分されなかつた生徒)がなるべく至近の公立高等学校に入学できるような基準を設けることが望ましいことは勿論のことである(尤も、合選委では、これをいくらかでも回避するため、本件ふり分けにおいては、前記一の2、(四)に認定のとおり遠距離通学者に関する調整を申し合せ事項とし、これが実施されたが、それでも限られた範囲の者であつて、原告らのように右不利益を受けた生徒がかなりの数あるものと推測されるのであり、本件合選制によつて生じた病理現象の一つとして、今後これに対する何らかの配慮、対応が望まれるものと思われる。)。そうはいうものの、右の結果強いられる遠距離通学は、大分県第五通学区域(大分市、大分郡、北海部郡)という限られた通学区内のものであるし、その通学条件については前記一の5に認定のとおりであつて、これらに照らすと、事実上教育を受ける権利を剥奪するに等しい遠距離通学を強いるものとまではいえず、従つて申し合わせ基準は法の許容した裁量権の範囲内のもので、当不当の問題を生じるにすぎない程度のものであり、この点でも原告らの主張は理由がない。

以上のとおりであつて、本件ふり分け基準自体の違法をいう原告らの主張はいずれも失当である。

4  本件ふり分けの具体的手続の違法性について

(一)  原告らは、一七〇〇番を超え一八〇〇番タイまでの間の選抜手続において再び調査書を用いることは背理であると主張するが、調査書の「その他の記載」を考慮することは、調査書のうち総合成績の換算点とされる記載事項と異る事項を考慮するもので、背理とはいえず、かつ前記一2(二)(5)の要項基準に合致したものである。また前記一2(五)の一パーセント枠の取扱いは申し合わせ基準で明確にはされていなかつたものではあるが、従前の合選制の時代から慣行化していたもので、クラブ活動を活性化し学校の特色を出して生徒の志気を高めるという教育的観点から行われ、その枠も定員の一パーセントに限られていることからしても、必ずしも不合理なものであるとはいえず、各学校長の裁量権の範囲内の問題として違法とはいえない。

(二)  更に、原告らは、本件ふり分け手続においては、その公正さを担保するものはないうえ、結果の不当性からみて、ふり分けは恣意に基づくものと主張する。

たしかに前記認定の事実によれば、ふり分け手続が公正にされることを担保するに足る制度的、組織的な保障はないのであるから、同一ゾーン内において希望者が配分枠を超えるときに、検査成績のほかに何らかの他事考慮がなされる余地がないとはいえず、ことに、一七〇〇番を超え一八〇〇番タイまでの者の中から合否決定をするに際しては、成績以外の他事情も考慮されるのだから、そこに諸般の事情が介入する余地を否定できないと考えられることからしても、合選委内部の者を除く第三者、ことに受検生及びその父母にとつては、前記一パーセント枠の取扱いと同様の取扱いが、他の事項についても行われた可能性があるのではないかとの疑いを抱くのも否定できないし、これを杞憂として一笑に付するわけにもゆかないと思われる。しかし、他方、右事実から直ちに、本件ふり分け手続が恣意的に行われたものと速断することもまた困難である。

尤も、原告らは、ふり分けの不当な結果として、請求原因5(三)、(1)に記載の(イ)ないし(ホ)の事実を主張するが、いずれも、これらを認めるに足りる証拠が存しないか、或いは、前述のふり分け基準に従つて生じた当然の結果であるかであつて、所論の恣意的ふり分けの証左とすることはできない。

(三)  また更に、原告らは、本件ふり分け手続の恣意性等を立証しうる書類である選抜に関する表簿の毀損やことに審査カードの提出拒否等、被告らは不誠実不充分な訴訟活動を行つており、これら行為は民訴法三一六条を類推適用又は準用すべき程度に達していると主張する。しかし、仮に保存義務等があつても、本来受検者個々人の検査成績や調査書に基づき作成された内部文書である審査カードにつき、被告らに提出義務があるものとはいえず、被告らがこれを提出しないのも守秘義務があることによりやむを得ないものである。これが単に原告各本人のプライバシーのためにのみ存し、これが権利放棄の対象となるものとも解されない。従つて、同法三一六条を類推適用又は準用すべき場合とは認められない。

以上のとおりであつて、被告上野丘高校長が原告釘宮らに対し、被告舞鶴高校長が原告安部に対しそれぞれ入学不許可処分をしたことにつき恣意的なふり分けに基づく裁量権の逸脱がある等処分の具体的手続の違法をいう原告らの主張は失当である。

四  入学許可処分取消請求について

請求原因6のうち、被告東高校長が原告らに対し入学許可処分をしたことは当事者間に争いがなく、本件合同選抜制度及びその目的並びに本件ふり分け基準が、いずれも違法とはいえないことは前項において判示したとおりであり、また被告東高校長の入学許可処分が裁量権の範囲を逸脱したことをうかがうに足りる事実もないから、右各処分を取消すべき事由はなく、原告らの主張は失当である。

五  地位確認請求について

公立高等学校の在学生たる地位は、公の営造物の利用関係の設定を受けた地位であると解され、この関係は入学志願者の志願に対する学校長の入学許可処分により設定されるものであるところ、前示のとおり被告上野丘高校長は原告釘宮らに対し、被告舞鶴高校長は原告安部に対し、それぞれ入学を許可しない旨の処分をしたものであり、右処分は前示のとおり適法なものであるから、原告らとの間にはいまだ右利用関係は設定されておらず、その地位の確認を求める原告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

六  損害賠償請求について

1  請求原因8(一)の(1)及び同(二)の(1)については当事者間に争いがない。

2  原告は、被告各学校長らの違法行為は、違法な本件合同選抜制度及びふり分けに従つたことである旨主張するのであるが、敍上判示するとおり、本件合同選抜制度及びその目的、ふり分け基準並びにふり分け手続は、いずれも違法ではないから、原告らの主張はその前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

七  結論

以上のとおりであつて、原告らの本訴各請求のうち入学許可不作為違法確認請求は不適法として却下し、その余の本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川本隆 岡部喜代子 本多俊雄)

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